中央気象局(日本の気象庁に相当)は昨年末、国立台湾大学海洋研究所の楊頴堅副教授に委託し、台湾の外海に初めて2基のブイ式海底津波計を設置した。ブイ式海底津波計は、太平洋、南シナ海、フィリピン沖などの沈み込み帯で発生する津波を観測するもので、津波の被害を受ける可能性のある地域に対して事前に警報を出すことが可能になる。
「ブイ式海底津波計は外海に駐留する衛兵のようなものだ。台湾にとっては津波被害を防ぐための海の防波堤だ」と指摘するのは中央気象局地震測報中心だ。以前は台湾東部の外海を震源地とする地震があっても、陸域にある地震観測ステーションで収集した情報から警報を出すしかなかったが、現在はブイが異常な高波を観測すると直ちにそのデータを送り返してくれるため、地震警報は秒単位で、津波警報は分単位で出し、避難時間を確保することができるようになっている。例えばブイ式海底津波計があれば、2009年のサモア沖地震の規模であれば、台湾には津波到達の7分前に警報が届き、2011年の東日本大震災のようなケースでも津波到達の20分間に警報を受けることができる。楊頴堅副教授は「津波はいつやって来るか分からない。防災はやはり重要だ」と強調する。
しかし、ブイ式海底津波計には通信が途絶えたり故障したりするなどの欠点があり、どの国もこうした問題に頭を抱えている。今回、このブイ式海底津波計は、台湾本島の南東340㎞の外海と、南西220㎞の外海に設置された。しかし、南西220㎞の外海に設置されたブイ式海底津波計は今年1月4日に通信が途絶えた。船舶が衝突したものとみられ、中央気象局や海洋委員会海巡署、海軍などが何度も捜索したが、発見には至らなかった。
楊頴堅副教授によると、ブイ式海底津波計の故障は、設置されていることを知らない外国の船舶が衝突したり、悪天候によって流されて破損したり、あるいは漁民によって破壊された上、撤去されるケースが大部分を占める。しかし、中央気象局はブイ式海底津波計の設置に当たり、職員を台湾全土の主要な漁港に派遣し、漁民への周知を徹底していた。また、各地の漁会(=漁協)の責任者らも積極的に協力し、漁民に対してブイ式海底津波計と接触しないよう注意を促していた。
このため楊頴堅副教授は、連絡が途絶えたブイ式海底津波計の故障に台湾の漁民が関わっている可能性は低いと考えている。なぜなら「台湾の漁民は非常に正直で、教育レベルも高い。台湾の漁民が悪意をもって破壊することはないだろう。なぜなら彼らは、ブイ式海底津波計の存在が、国家の人命と財産の安全を守る重要なものだということを理解し、応援してくれているからだ」と話す。
これまでも、台湾の漁民は海上で見つけた計測器を、そこに書かれている連絡先を頼りに、謝礼も受け取らずに、持ち主に返してくれるケースがたびたびあった。楊頴堅副教授はよく海外のシンポジウムに参加するが、あるときこの話をすると、アメリカの学者から「漁民は君たちに、いくら身代金を要求してきた?」と聞かれた。楊頴堅副教授は、漁民たちから謝礼を要求されたことは全くなく、申し訳なかったのでコンビニで缶ビールを1本買って漁民にお礼をしたほどだと話した。すると海外の学者たちは大変驚き、「今度は自分もビールを1ダース買って、台湾の漁民に会いに行こう」と笑いながら話したという。
なお、行方不明になったブイ式海底津波計は、5月に備品が台湾に届き次第、再び台湾外海に設置する予定だ。